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東京高等裁判所 平成7年(ラ)585号 決定

②事件

抗告人

丸山隆

右抗告人代理人弁護士

安原幸彦

山口泉

相手方

小池あやの

主文

一  本件執行抗告を棄却する。

二  執行抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」に記載のとおりである。本件執行抗告の理由は、要するに、原決定は、民事執行法八三条の解釈適用を誤り、同決定別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の共有持分二分の一を買い受けたにすぎない相手方の申立てにより、抗告人に対し、本件建物の引渡しを命じた誤りがあり、同決定は違法であるというにある。

二  本件記録及び競売事件記録によれば、次の事実が認められる。

1  本件建物の抗告人の共有持分二分の一について、平成四年一月二二日、債権者株式会社大信販(同年四月株式会社アプラスに商号変更)から強制競売の申立てがあり、同日、強制競売開始決定がされるとともに、同月二四日受付で差押登記がされ、また、同年一〇月一三日、債権者日本信販株式会社から同じく強制競売の申立てがあり、同月一四日、強制競売開始決定がされるとともに、同月二二日受付で差押登記がされたところ、平成六年一二月一五日、相手方を買受人とする売却許可決定がされ、平成七年三月六日、相手方は代金を納付した。次いで、同年四月一二日、相手方が本件建物につき抗告人を相手方として不動産引渡命令を申し立てたところ、同月二一日、原決定が出された。

2  本件建物の占有状況については、次の報告がある。

(一)  執行官曾田耕三は、平成四年二月一七日に本件建物に臨場して、その現況を調査し、その結果に基づき、本件建物の占有者は抗告人であり、同人がその家族とともに本件建物に居住していること、本件建物の共有持分二分の一を有する渡邉秀子は抗告人の妹であり、同人は本件建物に居住していないこと、抗告人と渡邉秀子との間には賃貸借契約などは締結されていないことなどを同年三月九日付け現況調査報告書により報告した。

(二)  執行官栗田義則は、平成五年二月九日に本件建物に臨場して、その現況を調査し、その結果に基づき、本件建物の占有者は抗告人であり、同人がその家族とともに本件建物に居住していること、抗告人と本件建物の共有者渡邉秀子との間には賃貸借契約などは締結されていないことなどを同年五月一一日付け現況調査報告書により報告した。

(三)  評価人中島郁夫は、平成四年五月二六日ころ本件建物に臨場して、その現況を調査し、抗告人がその家族とともに本件建物に居住していることを認めた上で、これを前提として本件建物の価格を評価し、同年六月二九日付け不動産評価書を提出し、さらに、平成六年二月二二日に再度本件建物に臨場して、その現況を調査し、前回調査時と同様に、抗告人がその家族とともに本件建物に居住していることを認めた上で、これを前提として本件建物の価格を評価し、同年三月二八日付け不動産評価書を提出した。

三  右認定事実に基づき、本件不動産引渡命令の適否について検討する。

不動産の共有持分は、民事執行法四三条二項により、金銭債権についての強制執行については、不動産とみなされ、同法の不動産に対する強制執行の規定に従い強制執行の対象とすることができるのであるから、不動産の共有持分を買い受けて代金を納付した者は、同法八三条一項にいう代金を納付した買受人として同項に基づき債務者に対して不動産引渡命令を申し立てることができるものと解するのが相当である。

抗告人は、共有持分自体は対象不動産の引渡しの強制執行により実現される権利ではなく、また、共有持分の買受人は債権的請求権としても引渡しの強制執行により実現される権利を取得することはできないなどとして、本件建物の共有持分二分の一を買い受けたにすぎない相手方は抗告人に対し本件建物の引渡しを求めることはできないと主張するが、本件建物についての差押えの効力が発生したのは、前記二1の平成四年一月二四日受付の差押登記がされた時であるところ、前記の本件建物の占有状況についての報告及び一件記録によれば、右差押えの効力の発生前から現在に至るまで債務者である抗告人が本件建物の全部を単独で占有していて、本件建物の共有持分二分の一を有する渡邉秀子は占有していないこと、また、抗告人と渡邉秀子との間において本件建物につき賃貸借契約などの使用権も設定されていないことが認められ、右事実によれば、抗告人は、共有持分権に基づき本件建物を占有していたものと認められる。相手方は、買受けにより抗告人からこのような共有持分権を取得したのであるから、抗告人に対し、抗告人が右共有持分権に基づき占有していた本件建物の引渡しを求めることができるのは、当然のことというべきである。なお、相手方と他の共有持分権者である渡邉秀子との間において本件建物を具体的にどのように利用するかについては、後日右両者間の協議により定められるべき事柄であり、右協議により本件建物の利用関係が定まっていないことは、何ら不動産引渡命令を妨げるものではない。したがって、抗告人に対し本件建物の引渡しを命じた原決定は、適法であり、抗告人の主張は理由がない。

四  以上のとおり、原決定には、抗告人主張の違法事由はなく、同決定は相当であり、本件執行抗告は理由がないから、これを棄却することとし、執行抗告費用の負担につき、民事執行法二〇条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石井健吾 裁判官吉戒修一 裁判官大工強)

別紙〈省略〉

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